ダイバーシティ&インクルージョンが叫ばれている中、クリーン・テクノロジーでは「学歴・経験・知識・性別を問わず、違いを強みとして活かすことが競争力の源泉」と謳っています。なぜこのような企業風土をつくることができたのか、そして、起業しようとするシングルマザーに向けたメッセージを、淡路敏夫代表取締役と人材開発チームの原田康太リーダーに伺いました。

代表取締役 淡路 敏夫さん

1990年クリーン・テクノロジー株式会社を設立。半導体産業(半導体及びLCD製造ライン)の環境保全に必要不可欠な要素である排ガス処理装置などをメインに、世の中にないモノを創る会社として活動。「チャレンジ・スピード・フレキシブル」をテーマに活動。

人材開発チーム/特機チーム リーダー 原田 康太さん

山口県宇部市出身。人材派遣会社人事採用職を経て2018年に20年ぶりにクリーン・テクノロジー株式会社に復職。 採用活動による人材確保や、社員研修等による組織体制構築に従事する中、新規事業に挑む製品開発部門を兼務。

グラミン日本:クリーン・テクノロジーが解決したい社会課題について教えてください。

淡路:クリーン・テクノロジーは半導体産業の環境保全に取り組んでいるテクノロジー企業です。当社のビジネスは大気汚染を防止する排ガス処理装置や水質汚染防止装置を通じて、世の中の空気や水をきれいにすること、それも一時的にではなく、安全かつ安定的に、持続的にきれいにしていくことです。これが当社の社会貢献であり、事業の根幹と考えています。

「5人1組」が持つ可能性

グラミン日本:どのような経緯でグラミン日本を支援することになったのでしょうか。

原田:そもそものきっかけは、私が百野さん(グラミン日本理事長・CEO)からグラミン銀行の支援モデルである「5人1組の互助グループ」を学んだことです。人それぞれ置かれた環境や仕事は違っても、同じ未来を共有する5人のメンバーが、互いに励ましあい、高めあいながら前に進んでいく仕組みを知って、大変感銘を受けました。この考え方を当社の人材育成にもぜひ取り入れたいと思い、百野さんに新人研修の講師として関わっていただきました。そのような経緯でグラミン日本の賛助会員になり、現在、資金面での支援を行っています。

百野による新人研修の様子

グラミン日本: 5人1組の互助グループが持つ力は、人の可能性を最大限に引き出すことができる仕掛けです。クリーン・テクノロジーではどのようにその良さを捉え、組織や人材育成に反映されているのですか。

原田:特にここ数年は、若手や新卒採用を増やし、新しい価値観の発信や組織の垣根をこえて仕事を進めることを推進しており、そこでグラミン日本の5人1組の互助グループを取り入れています。

淡路: グラミンの互助グループは、世の中に類を見ないシステムです。人が持つ可能性に学歴、年齢、性別、経歴、知識などの「属性」は関係ありません。属性で人を区別したり、待遇を変えたりするのは違うと私は思っています。それぞれの違いを見つけ、認め合い、活かすことができるかが重要。グラミンの互助グループはそれをうまく実践している。弊社の組織マネジメントにどう取り入れようか、そこからどうやって当社独自の手法にしていこうかと試行錯誤をしています。

グラミン日本の融資モデル:①グラミン日本が主催する「稼ぐ力を身につける無料のオンラインワークショップ(ミライWorkShop)」や各種就労支援プログラムに参加した方同士で、5人一組の互助グループを形成。②互助グループでの金融トレーニングやグループ面談を経て、グラミン日本より参加者それぞれに事業融資を開始。③融資後は1か月に2回、グラミン日本の融資責任者(センターマネージャー)と互助グループとで、融資金の返済確認をしたり、それぞれの自立に向けた取り組みや悩みを話し合う「センターミーティング」を実施。このように互助グループのメンバー同士が励ましあい、お互いの活動を応援し合うことが、自信と勇気になり、あきらめずに前に進みつづける原動力になります。

垣根を越えた先に得られるもの

グラミン日本:試行錯誤の具体的なお話を聞かせてください。

淡路:一つの例として、経営としては事業成長に伴って地方へもサービス拡大していかなければならないものの、転勤を嫌がる社員もいて、数年単位での地方勤務が実現しにくいという状況があります。そこで本社(大阪)以外の地方拠点にシェアハウスを作り、週単位のローテーションで長期出張に対応することとしました。九州や東北のシェアハウスに滞在しながら、現地のお客様の仕事のやり方や習慣の違いを体験することで、多様なものの見方や許容力が早く身につき、結果的に社員の成長が早まっていると感じます。
また別の例として、当社には海外から来日した外国人社員の方々がいますが、私は、技能実習のような制度は好んでいません。技量に差があるならともかく、同じ人間が同じ仕事をしているのに、最初から区別するのはよくありません。ですから私は、海外の人であれ、年齢の高い方であれ、みな同じように接します。当社の外国人社員は日本語ができますが、あえて日本語ではなく英語で話してもらっています。社内で英語が普通に聞こえる環境になれば、次第に日本人社員も拒否反応がなくなるし、みんな母国語ではないのだから、おかしな英語を気にする事もなくなります。
違いを違いと捉えれば会社のルールや慣習に合わなくて「欠点」になってしまうかもしれない。しかし違いを許容すれば「新しい何かが生まれる起点」になるのです。

クリーン・テクノロジー社員の皆さん

グラミン日本:「違いを許容すれば、新しい何かが生まれる起点になる」という言葉は、まさに多様性のある組織への変革を実行されている企業だからこそ、出てくる言葉だと感じます。

淡路:グラミン日本が支援しているシングルマザーの方々は、経済的にも社会的にも立場が弱いとされていますが、彼女たちが持つ個性を武器にかえればいい。従来のやり方が通用しなかったり、知識が足りない中で、もがき苦しみながら生み出した独自のやり方は、きっと強いはず。社会や企業の中にルールや慣習と合わない部分があるなら、自分たちが変わり、個性を武器にするという発想が重要です。

グラミン日本:グラミン銀行創設者のムハマド・ユヌス博士は「すべての人間は創造的で、 生まれながらにして起業家である」と言っています。グラミン日本の支援を経て起業した方々は、自らの生き方や価値観を、創意工夫で「武器」にしています。⇒グラミンメンバー(実績紹介)

最後に、グラミン日本から融資を受けて起業を目指すシングルマザーの方々へ、起業家の先輩として応援メッセージをお願いします。

淡路:クリーン・テクノロジーは、私一人で起業しました。輝かしい経歴もない状況でしたが、大企業に対しても臆せず乗り込んでいきました。人間だれでも時間は平等にあります。その中でどういう時間の割り振りをするか、月にいくら売上をあげたいか、製品をいくら売ればその目標に到達するのか、一回の営業にどれだけチャンスがあるのか、どうすれば商談が成功するのか、とりあえずやってみて修正していく。苦しい状況だからこそ創造できるものがあります。私は、今もその想いをもって「世の中の空気をきれいにする」ことに挑戦し続けています。
どんな苦しい時でも、考えて実行を続けていれば、きっと何か新しいものが生まれてくる。そう信じて挑戦を続けてください。私からみると、グラミン日本のようにサポートしてくれる方がいて、皆さんはとても恵まれていると思いますから(笑)。