
宮城県気仙沼市に住み、小学生の娘さんを育てているシングルマザーの菅野 奈津子さんは、東日本大震災を機に東京から地元へ戻り、現在『株式会社 女性が働きやすい会社』の経営者でもあります。
創業の経緯やグラミン日本の「ミライWorkShop」に参加した当時のことは、こちらの記事で以前取り上げました。現在グラミン日本の仙台支部でも、ボランティアとして経済的自立を目指すシングルマザーに伴走している菅野さん。どんな日々を過ごしているのか、あらためて尋ねました。
人材が育っていく変化が一番のやりがい
菅野さんが2022年に創業した「女性が働きやすい会社」は、アウトソーシングの請負がメインの企業。商品パッケージやチラシ・ホームページなどのデザイン業と、バックオフィス業、この2つが中心です。
同社のホームページを見ると、菅野さんのメッセージにはこうあります。
私たちは、地域にテレワークという手段を浸透させることで、
特に女性の働く選択肢を増やし、個人の状況や希望に応じて、
自由に働くことができる環境づくりに取り組んでいきます。
アウトソーシングという方法を、地域の企業さまにご提案し、
業務改善や人材不足問題解消のお手伝いをしてまいります。
その先の未来には、女性だけでなく「人が働きやすい会社」、 人が働きやすい「社会」を見据えています。
ともに業務にあたるのは、首都圏に比べると仕事の需要が少ない“地域の女性”。彼女たちのキャリアはさまざまで、「女性が働きやすい会社」では完全な未経験者の育成も手掛けています。「伴走して人材を育てていくのは本当に大変なことですが、メンバーが自分事として業務にトライしていくようになる姿、自主性が芽生え仕事を取ってくるまでに成長していく変化が、一番のやりがいです」と語ります。このほか、テレワーカー育成講座などの講師業、人材育成に関わる仕事なども菅野さん個人で行っています。

他にはどんなやりがいがあるか尋ねると、こんな答えが返ってきました。
「私はサラリーマンとして働いた経験はあるのですが、起業は初めてなので、本当にわからないことだらけです。ゼロから作りあげなければいけないので、本当に大変です(笑)。
でも同時に、素晴らしい出会いもたくさんあります。
今年度は商工会議所青年部の「学び・交流委員会」で委員長を務め、異業種交流会などを通じて、地域の経営者を中心に本気でビジネスに取り組む人たちがつながる場づくりをしています。
これまで出会うことのなかった方々と関わる機会が増え、人生の広がりや豊かさを感じるようになりました。何ごとも当たり前ではないと、感謝の気持ちを持てるようになったんです。」
会社は働きやすさをみんなで追求する場
子連れでの出勤、勤務場所を選ばないなど柔軟な働き方ができる場所を作りたいと起業した菅野さんは、少しずつ目標を達成できていると感じています。今年2月にはキッズスペースのあるオフィスも設けました。引き続きスタッフの声を聴きながらよりよい環境作りをめざしていくとのこと。「女性が働きやすい会社は、メンバー全員でどうやったら働きやすくなるかを追求する場であると思っています。」
菅野さん自身も学校行事があるときは仕事の時間を工夫するなどして、娘さんとの時間が多くとれるよう意識をしています。楽しい時間を2人で過ごせているなと実感しているそうです。
グラミン日本での学びは経営者になった今も生きている
経営者になった今も、グラミン日本のワークショップで学んだことは生きています。「一番最初に“自分を見つめる時間”があったのですが、一人親はなかなかそういう時間をとれないんですよね。 “あとで考えてきてください”と宿題にされても結局時間がないから、その場で見つめる時間を作ってくださるのがとっても良かったです。」
自身を振り返ることができたのはもちろん、“いまを大事にする感覚”をワークショップで身につけられたことで、経営においても、その場で考えてアウトプットまで持っていくことを意識するようになったそう。
また、シングルマザー同士で支えて励ましあう5人一組のグループ制度も、グラミン日本が行う支援の大きな特徴の一つですが、ここで一緒になった仲間は、当時もいまも大事な相談相手になっているそうです。
このほか、菅野さんはコーチングの資格取得のためにマイクロファイナンス(小口融資)を利用しました。「当時、法人だけ作った状態だったのですが、起業直後は実績がないので一般的な金融機関で融資を借りるのは難しくて。でもグラミン日本の融資は、何かを学ぶ、起業の準備をする、そういう段階にまで間口を広げて借りられるし、きちんと返済すればそれがその後の金融的な信頼にも繋がるのはありがたかったですね。」

シングルマザーとの橋渡し役として
「私は社会貢献を重視したビジネスモデルで起業したので、売上や利益といった面での具体的なアドバイスは難しいところもあります。ただ、それでも“自分がワクワクする方向に進むこと”を大事にしてきました。アドバイスというほどのことはおこがましくて言えませんが、もし今、立ち止まって迷っているシングルマザーの方がいるなら、ぜひ自分のワクワクを大切にしてほしいと思います。」
と、言葉を慎重に選びながら語ってくれた菅野さんがグラミン日本の運営にも関わるようになったのは、シングルマザー当事者として、自分ならグラミンとシングルマザーの架け橋になれると感じたことがきっかけだったそうです。
「ボランティアの中には、キャリアやスキルが豊富な人たちもいます。そういう人を前にすると、シングルマザーの方がつい自分と比べて気後れしてしまうこともあるんです。
運営側が発した言葉を、上から見られているようにシングルマザーが捉えてしまったときは、そうじゃなくてこういう思いで話しをしていたんだよと私から彼女たちに伝えることができる。参加してくれたシングルマザーが、より深く参画してもらえるようにしたい。すぐに数字に成果が表れることではないけれど、こうして動くことが、きっと明るい未来みたいなものにつながると思っています。」
誰かに伴走する側・される側、両方の当事者だからこそできることがある―それがグラミン日本でのボランティア活動でも、女性が働きやすい会社の事業でも、自分の使命感になっていると話してくれました。
