「障害があっても、みんなと同じように外出を楽しみたい」
そんな当たり前の夢を叶えるため、起業に踏み切ったシングルマザーがいます。小学生6年生の男の子を一人で育てる橋本恵美さんです。
子どもが小学校高学年になったらフルタイムの仕事に就こう──そんな計画を立てるシングルマザーは多いはず。でも、お子さんが障害児の場合、年齢を重ねたからと言って一人で留守番できるようになるとは限りません。橋本さんのお子さんもそうでした。
「息子には重度の知的障害と自閉症があります。学校や放課後のデイサービスなどの公的サービスを利用するには私の見送りや出迎えが必要なため、正社員として働くのは難しく、起業を考えるようになりました」
そこで思いついたのが、障害者とその家族に向けて外出情報を発信することでした。
「障害を持つお子さんの親御さんはきっと、もっと気軽に外に出て、旅行やレジャーを楽しみたいって思っているはずです。子どもがいろんな出会いや体験をして、いつもと違う表情や成長を垣間見られるのは、親にとっては嬉しいことだからです」
でも、外出先の環境や施設など、障害者やその家族の視点に立った情報は決して多いとは言えない。だったらWebサイトを立ち上げて自ら発信してしまおう。そう、橋本さんは決断します。
とは言え、起業のノウハウや事業資金があったわけではありません。そんな時に知ったのが、シングルマザー支援協会とグラミン日本が開催するワークショップでした。
「同じ目標を持つ仲間が5人一組になって、講師の方のアドバイスを受けながら、どうすれば起業につなげられるかアイデアを出し合い、時には疑問を投げかけながら切磋琢磨します。人と話すことで、頭の中にぼんやりあったプランがくっきりと描かれ、一歩ずつ前進している手応えが感じられました」
サイトの運営に不可欠なデジタルマーケティングを学ぶため、グラミン日本のマイクロファイナンスを利用して新しいパソコンを購入。今ではデジタルマーケティングの仕事で収入を得るまでになっています。
そして、起業の夢はエンジェル投資家の登場によって実現します。
「私の事業プランを評価して、出資してくださる方がいる。思いを叶えるために一歩ずつ進んだ結果、いつの間にか起業というスタートラインに立てたことに、私自身が一番驚きました。思いを言葉にすると、聞いてくれる人がいて、また次の出会いにつながるのだと実感しています」
橋本さんの最終目標は、「親の私がいなくなった後でも、息子が豊かな人生を生きていけるようにすること」だと言います。
「人は誰でも余暇を充実させることで、仕事や日々の生活を頑張れるのではないでしょうか。息子にも余暇を充実させて、生き生きとした人生を歩んでもらいたい。そのために私は、一生をかけて活動してくつもりです」