誰でも気軽に社会貢献できる仕組みとして注目を集める「グラミンでんき」。毎月の電気料金から 100円をグラミン日本に寄付するというシンプルかつ効率的なスキームは、大企業とは一線を画するリーンな手法によって生まれました。なぜ PDATER は、大上段に構えず軽々と、そして着実にソーシャルビジネスに挑めるのか。
大石英司代表取締役社長と新規事業担当の村松尚子さんに、グラミン日本がお話をうかがいました。

代表取締役社長 大石英司さん

凸版印刷などを経て、2011年みんな電力株式会社(現:株式会社UPDATER)を設立。電気の生産者がわかる「顔の見える電力™」のコンセプトを掲げ、再エネを中心とした電力小売り事業を展開。グラミン日本アドバイザー。

新事業推進部 村松尚子さん

長崎県長崎市出身。障がい者専門の保険会社査定部から地方銀行リテール部門営業店企画を経て2019年にみんな電力株式会社(現:株式会社UPDATER)に入社。現在は主にソーシャルセクターとの協業企画立案と推進を担当。

創業に込めた貧困解消の願い

グラミン日本:最初に創業の思いを聞かせてください。なぜ新電力事業への参入を決めたのでしょうか。

大石:サラリーマン時代のある日、通勤電車で前の席に座っていたとても素敵な女性が、ソーラーパネル付きのキーホルダーをカバンにつけていたんです。ちょうど僕の携帯のバッテリーが切れそうなタイミングで、「あれ、電気って誰でもつくれるものなんだ。こんな素敵な人がつくった電気だったら200円で買ってもいいな」と思いました。2007年ころのことです。

従来、電気は電力会社だけがつくれるものだったけれど、今なら子どもでも、おばあちゃんでも、みんなが電気をつくり、富を生み出すことができる。これはもしかしたら貧困の解消につながる仕組みができるんじゃないか、って気がつきました。さらにそれが再生可能エネルギーならば世の中に安全でクリーンな電気を増やせるし、買う側は自分が好きな電気を選んで買うことができる。なんてイノベーティブでおもしろいことなんだろう、とワクワクしました。これが当社の社会課題解決の原点である、みんなで電気をつくって好きな電気を選ぶ「みんな電力」のプロジェクト誕生のきっかけです。

「よし、電力会社をつくろう」と起業準備を始めたのは、東日本大震災が起こる前。脱炭素なんて言葉が出てくる前のことでした。当時から一貫して、「エネルギーの中央集中生産から、クリーンエネルギーの分散生産にシフトさせ、誰でも富がつくれて貧困が解消できる社会」を目指しています。

グラミン日本:「みんなで電気をつくって、好きな電気を選んで買う」というビジネスプランを、「貧困の解消」に結び付けた発想がすばらしいですね。大石社長はいつころから、どのように貧困問題に向き合ってきたのですか。

大石:「貧困の解消」に対する意識の高まりは、グラミン銀行創設者のムハマド・ユヌス博士からインスピレーションを得たものです。ユヌスさんは、「日々のビジネスで貧困問題を解決する」ことを実践されています。

私は大阪府東大阪市の、どちらかというと下町で、所得格差が大きい地域で生まれ育ちました。野球の才能があったり、ずば抜けて勉強ができる同級生が、家庭環境が原因で野球を続けられなかったり、進学をあきらめたりする状況を間近で見てきました。貧困状態にある子どもが個性を発揮して生きていくのはとても難しいことです。根本的に貧困を解消しない限りこの社会課題に終わりはありません。だから僕はビジネスで貧困問題を解決したい。僕のロールモデルはムハマド・ユヌスさんなんです。

「グラミンでんき」はこうして生まれた

グラミン日本:グラミン日本への支援も、ユヌス博士に影響を受けたことがきっかけですか。

大石:僕にとってユヌスさんはビジネスのヒーロー。いずれ一緒に仕事ができる機会があったりしたらいいなとはずっと思っていましたが、憧れも憧れ、夢の世界みたいなところがありました。ところが周囲にユヌスさんと会ったことのある経営者がいたり、グラミンの日本準備機構のミーティングに参加している人がいると知り、ちょっとずつ現実味を帯びてきた。「僕もぜひそのミーティングに参加したい」と伝えたところ、願いがかなって参加するようになりました。

グラミン日本:グラミン日本の準備機構というと2018年ごろですね。その段階ではどのような支援を検討されていたのですか。

大石:「ソーシャルビジネスの代名詞であるグラミンと何か一緒にやりたい」と社内で提案したのですが、「何ですか、グラミンって」「ユヌスさんって誰ですか?」みたいな感じで(笑)、誰も知らなかった…。「ノーベル平和賞を取っててさ」なんて説明をして。そんな中、村松さんが「私、やりたいです」と手を挙げてくれたんです。

村松:当時は請求書発行業務を担当していたのですが、早朝出社した日にたまたま社長がいたので、「大石さん。私、グラミンさんの支援活動やりたいです」って直談判しました。

大石:やっぱりこういうことは、社長がやりたいからお前やれという話ではなく、誰か真剣にやりたいと思う人がいないと進まないじゃないですか。だから村松さんが立候補してくれたのはすごくうれしかった。「じゃあ、全然違う業務だけどやってみてよ」って即決。それでグラミン日本への支援が始まりました。

グラミン日本:村松さんは、何から着手したのですか。

村松:週4日は従来の請求書発行業務をこなし、週1日グラミン日本の事務局に足を運び、勉強をさせてもらいながら具体的な支援策を考えるようになりました。

大石:会社としてまずは賛助会員(プラチナ会員)になって資金支援をさせていただきましたが、僕はユヌスさんの言う「ビジネスで貧困問題を解決する」をやりたかった。再エネ電気を売る事業者として、電気代の一部が支援に回る仕組みをつくりたい。みんなの電気でシングルマザーの経済的自立支援を応援するにはどうしたらいいのかと、考え抜きました。そうして生まれたのが、村松さんのアイデアによる「グラミンでんき」のスキームです(図1)。

図 1 グラミンでんきのしくみ

村松:現在は130人ほどの方が契約してくださっています。年間換算で15万円くらいとまだ小さな額ですが、徐々に増えています。

グラミン日本:私たちも、そうした積み重ねと多くの方のご厚意が本当に重要だと思っています。

大石:発電所によってはふるさと納税の返礼品のようなものがあったりするのですが、グラミンでんきにそういう“お得感”はありません。それでも「自分の使う電気代の中で、誰かの役に立ちたい」という思いだけで支援くださる方が130人も集まってきている。これはすごい大きなことですよね。

できることから「すぐに」「小さく」始める

グラミン日本:村松さんはどのようにして「グラミンでんき」のスキームを思いついたのですか?

村松:もともと当社には、故郷のおばあちゃん家の川の発電所や、被災地の太陽光発電所などに対して、自分で選んで電気代から応援金として月百円を送ることができる「応援金の仕組み」がありました(図2)。このユニークな仕組みを、社会課題解決に生かせるのではないかと思いつきました。新たな仕組みを立ち上げてやろうとするとどうしても時間がかかるので、いまあるものを活用してすぐ始められることにこだわりました。

図2 応援金の仕組み

グラミン日本:最初から大きな構想を描くと絵空事になりがちです。実現可能なところからスタートして実績を積んでいったのですね。

大石:大企業的な発想では、SDGsやESG関連の発信も「やってます」感をアピールするのに終始しがちです。当社の場合、小さくてもすぐに実行できるかたちでスタートできた点がよかった。社会課題に取り組み、それを発信したいと考えている企業の方々はあまり構えず、まずはできるところから小さく始められるといいと思います。

グラミン日本:経験に基づく貴重なアドバイスをありがとうございます。実際にグラミンを支援して、よかった点やうれしかったことは何ですか。

大石:一番のメリットは、ビジネスで社会課題を解決したいと思っている人たちがグラミンには多く集まってきていることです。同じ理念の下に企業同士の連携が効果的に進められる機会はなかなかありません。

村松:私が嬉しかったことは、自分たちの支援がどのようなかたちで貢献につながっているのか実感できたことです。グラミン日本でウェブライター目指して研修中だった甲斐美南子さんに、卒業制作のかたちで当社のオウンドメディアで記事を書いていただきました。(グラミン日本『やっと見つけた、私に優しい働き方』

甲斐さんご自身の人生について書いてくださったのですが、弊社ベテランライターからは「非常に苦労が多い、難しい内容にもかかわらず、とても心に伝わる素直な文章」だと好評でした。このように顔が見える電気と顔の見える支援がつながるかたちがつくれた。グラミン日本さんと一緒に取り組めてよかったと思います。

ブロックチェーンによる可視化が導く未来

グラミン日本:今後、グラミン日本と新たに取り組んでいきたいことがあれば教えてください。

大石:僕たちは、みんな電力からUPDATERに社名変更しました。電力・エネルギー業界をアップデートする立場から、社会全体をアップデートする立場へと進化をしています。当社のブロックチェーンテクノロジーを使って、電気のみならず、空気、土、衣食住の顔の見える化を進めています。

例えば村松さんが新規事業として取り組んだ「タドれるチョコレート」は、チョコレートの購入金額のうち100円が、カカオを生産するガーナの村に行くスキームです。僕らは、サプライチェーンのどこにいくら払われているのか見えない状況を可視化させ、本当に必要な人にお金が行き渡る世界をつくりたいんです。「値札」にある価格だけを見て選ぶのではなくて、もう一文字加えて「価値札」を見て価値で選ぶようになれば、結果的に社会問題を解決できると考えています。

グラミン日本とは、なかなか現場に行き届かない支援から脱却して、顔が見えるかたちで届ける支援を一緒に加速させていきたいと思っています。

グラミン日本:カカオ生産をめぐって児童労働が問題視されるなど、サプライチェーン上の人権・労働、紛争鉱物、CO2排出量などの管理が、多くの企業にとって重要な経営課題となっています。しかしリスク管理にとどまらず、ビジネスで課題解決を目指すソーシャルビジネスである点が、UPDATERさんの最大の特徴であり強みだと思います。

大石:実は、20年8月にユヌスさんとオンライン対談をした際にこの話をしたんです。「気候変動領域だけでなく、生活の中にあるいろんなものを僕らのブロックチェーン技術で見える化をして、貧困解消を実現する会社になりたい」と語ったところ、「そういう取り組みは大歓迎だ、ぜひやってほしい。グラミンとしても一緒にやっていきたい」とおっしゃってくださいました。ユヌスさんと僕との約束を、必ず実装したいと思っています。

グラミン日本:ユヌスさんとの未来に向けた約束がひとつかないましたね! では、最後に大石社長からグラミン日本へ応援メッセージをお願いします。

大石:社会課題解決は本当に時間がかかる。しかし、グラミンはそのムーブメントをつくれる存在だと思うので、ぜひダイナミックにやってください!

グラミン日本:力強いお言葉をありがとうございます。グラミン日本一同、がんばってまいります。本日は学びの多いお話をお聞かせいただき、ありがとうございました。

(2022/7/18)

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