マイケル・ポーターがCSV(Creating Shared Value)を提唱して10年余り。日本でも、社会課題解決が企業価値向上に直結するという考え方が浸透しつつあります。
自社の強み、競争優位に依拠した活動で社会貢献を越えた経済価値を実現する。この原則を象徴する事例が、アクセンチュアの取り組みです。
グラミン日本をはじめとするさまざまな非営利組織との連携により、意欲の高い人材やステークホルダーからの信頼獲得につなげています。

公共サービス医療健康本部 マネジング・ディレクター
大寺伸さん

アクセンチュア入社後、中央省庁や自治体、公益団体での大規模トランスフォーメーション業務に従事。2019年よりグラミン日本プロジェクトの責任者としてプロボノ活動に参画。

テクノロジーコンサルティング本部 公共サービス医療健康グループ
アソシエイトマネジャー 平野菜々子さん

アクセンチュア入社後、公共領域におけるシステム設計・開発やコンサルティング案件に従事。学生時代からグラミン銀行の活動に感銘を受けており、入社時から興味を持っていたグラミン日本のプロジェクトに今回参画。センターマネジャートレーニングの企画立案をご支援頂きました。

ビジネスコンサルティング本部 CFO & EVプラクティス
コンサルタント 清水美雪さん

アクセンチュア入社後、金融領域におけるシステム設計・開発やデータ分析案件に従事。経済的自立支援に関われるプロボノプロジェクトに長らく興味を持っていて今回グラミン日本のプロジェクトに参画。センターマネジャートレーニングの企画立案をご支援頂きました。

自社の強みを活かした企業市民活動

グラミン日本:まず、アクセンチュアが解決したいと考える社会課題について教えてください。

平野:アクセンチュアでは Corporate Citizenship(企業市民活動)として、非営利団体やソーシャル・ベンチャーとのパートナーシップを通じた社会課題の解決にグローバルで取り組んでいます。コンサルティング企業としての強みが活きるように、活動テーマは世界共通で “Skills to Succeed”(スキルによる発展)※1を掲げています。日本においてはこのテーマのもと、少子高齢化が進む中で国際競争力を保ち、日本経済の持続的発展につなげていくことを目指し、人材・スキル課題の解決に取り組んでいます(図 1)。若者に対する起業力の育成、障害者の就労支援や就業者のリスキルなど、さまざまな取り組みを行っており、グラミン日本への支援は、経済的に困難な状況にある方々を自立に導くことで社会の持続可能性を高め、またダイバーシティの向上により経済的にも競争力を高めていくことを目指した取り組みのひとつとして実施させていただいています。

図 1 日本における人材・スキル課題

グラミン日本具体的には、どのような内容の支援をいただいているのでしょうか。

大寺:2018 年グラミン日本の法人設立準備段階から、市場調査や戦略構築、事業計画の策定を行ってきました。法人設立後は融資事業を中心にご支援をさせていただいています。具体的には、現在「ミライWorkShop」として運営されているワークショップの企画やコンテンツづくり、キャッシュフォーワークプログラム※2の立ち上げ、こうしたプログラムへの認知を高めるためのマーケティング施策の立案などを支援させていただきました。直近では、グラミン日本の融資事業を支えるセンターマネージャー育成プログラムの体系化と、トレーニングコンテンツづくりのお手伝いをしました。

グラミン日本センターマネージャーは融資などを受けた 5人組の互助グループのメンバーに対して、借りたお金を返済できているか、事業の進み具合はどうかなどを確認して、課題があれば解決策を一緒に検討するなど、マイクロファイナンスの核となる重要な役割を果たしますよね。

平野:そうですね。センターマネージャーを育成することは、支援を届ける方を1人でも多く増やすことにつながります。具体的には、センターマネージャーを育成するための教科書や試験などのトレーニングコンテンツの作成を行っています。

グラミン日本トレーニングコンテンツを作成するうえで、苦心したことはどんな点ですか。

清水:センターマネージャーが、支援対象の方々にどのようにマイクロファイナンスを提供し、起業を支えていきたいのか、その思いを正しく理解し、具現化することが大変でした。ただ、その分大きなやりがいにもつながりました。

社会活動を通じて高まるステークホルダーからの信頼

グラミン日本グラミン日本を支援してよかったことを教えてください。

清水:さまざまなバックグラウンドを持つプロボノメンバーの方と一緒に、現場支援の活動することができたことは貴重な経験となりました。

大寺:第一に、支援を必要とする方々をグラミン日本と一緒にサポートし、着実に実績を出せていることです。同時に、社会課題の解決に高い関心を持つ社員に機会提供できたことは、アクセンチュアという企業に対する愛着心や信頼感を高めるきっかけにもなったと思います。実際、そうした志を持つ社員は増えており、最近では入社前からSkills to Succeed に興味を持っていたという社員もいます。社外でもプロボノ活動に対する認知度が高まっていると実感しています。

グラミン日本グラミン日本での支援活動を通して、「ここは課題だな」と思うことがあれば教えてください。

平野:アクセンチュアでは、本業との兼ね合いや、より多くの社員にプロボノやってもらいたいという理由から、プロボノメンバーの任期は最大6カ月としています。短期間でいかにキャッチアップして効果を出すか、どうやれば持続的な支援につなげられるかといった点を課題に感じています。

グラミン日本今後、取り組んでいきたいことを教えてください。

大寺:より大きな社会的インパクトを生み出すという視点からは、より多くの方々の変容や向上に直接的につながる支援をしていきたいと考えています。そのためには、グラミン日本においても、支援を必要とする方により近い部分で私たちの力を活かす方法を考えていきたいと思います。また、グラミン日本以外の団体も含めて、シングルマザー以外の方々の支援の可能性も探っていきたいと考えています。

グラミン日本社会課題解決に取り組みたいと考えている企業へのアドバイスをお願いします。

大寺:アドバイスと言われるとおこがましいですが、アクセンチュアがなぜ社会課題解決に取り組んでいるのか、その理由をふたつお伝えしたいと思います。端的には、社会的な持続性も含めたサスティナビリティという課題の解決に取り組むことが、企業としての存在意義を証明する活動であり、同時にビジネス機会をつかむ活動だからです。アクセンチュアは、「テクノロジーと人間の創意工夫で、まだ見ぬ未来を実現する」というパーパスを掲げていますが、サスティナビリティを置いてテクノロジーと人の創意工夫で今解決すべき課題はないと考えています。したがって、サスティナビリティの課題に取り組むことは弊社の存在意義の表れのひとつである。これが取り組んでいる理由のひとつ目です。
また、同時にサスティナビリティについては、“ 次のデジタル ” といえるほどのビジネス機会と捉えていて、我々は今後この領域においてクライアントへの価値創出に応えられる、世界をけん引できる企業にならなくてはならないと考えています。そのためには単にクライアントにサスティナビリティについてのコンサルティングサービスを提供するだけでなく、社会、コミュニティに課題解決に関する知見を企業市民として共有・還元し、企業としての信頼やリーダーシップを認められる存在にならなくてはいけない。これがふたつ目の理由です。
企業には、単に慈善事業としてではなく、社会課題解決をビジネスそのものとして捉えて取り込んでいくことが、さまざまなステークホルダーから求められるようになっているのではないかと思います。

※1 アクセンチュアでは「教育を通して人々のスキルの育成を図り、経済活動への参加と貢献を可能にする」ため、Skills to Succeed をテーマに掲げた取り組みを行っている。
※2 災害などで役割を失った被災者自身が復興に貢献するための役割を仕事として提供し、社会の復興と当事者の生活基盤の回復の両立を目指す手法。「キャッシュフォーワーク2021」では休眠預金等を活用し、コロナ禍という未曾有の状況に対応するため、新しい仕事づくりに取り組む団体に資金提供が行われた。

(2022/8/19)