
真ん中で絵本を手に持つのが、今回インタビューにお答えくださった塚越さん
フリーランスのデザイナーであり、シングルマザーとして2人の子供を育ててきた塚越恭子さん。デザイナーとして独立した頃にグラミン日本と出会い、当時のことはこちらのインタビューでお話ししてくださいました。またこれまでの波乱万丈な歩みは塚越さんのサイト「ツカエルデザイン」にも詳しく載っています。
現在はデザイナー業に加え、自身の経験を元につくった”産後の夫婦の危機”(産後クライシス)に関する絵本をつうじて、夫婦間のパートナーシップを支援する事業に注力しています。絵本の増刷費用として、グラミン日本が行っているマイクロファイナンス(少額融資)*の二度目の利用を検討中です。
*マイクロファイナンス:起業や就労による経済的自立を支援するため、経済的に不安定な状況にある方々に低利・無担保で行う少額の融資。
グラミンで得た学びや仲間は今も
塚越さんは独立から2年ほど経った2021年、グラミン日本が手掛けるプログラム「ミライWorkShop」に参加し、マイクロファイナンスを利用しました。デザイナーとしてのキャリアを着実に積み上げ、数年が経ったいまでも、当時の経験が役に立っていると言います。
「自分のこれまでの歩みや気持ちを整理する『人生曲線』の作成は、過去を振り返って、心が動いた瞬間やピンチを乗り越えた経験を再確認することで、今でも迷ったときの判断軸になっています。」

「また、ワークショップでは参加者で5人1組の互助グループを作りますが、今回の絵本づくりの英訳は、このときの仲間の1人が担当してくれました。」
この5人組の仕組みはグラミン日本が行う支援の特徴の一つです。一緒に走る仲間がいれば刺激しあうことができ、励まされ、一人だと滞りがちなことも進みやすくなるからです。グラミン日本の融資担当者もグループに付き、借りたお金を返済できているかや、事業の進み具合を確認しながら伴走します。
「結婚=無理ゲー」という娘の言葉
塚越さんが絵本を作ることになったのは、もう社会人になった娘さんの一言がきっかけでした。「結婚をしたくないし、子供も見たくない。」
ウェディングプランナーとして働く娘さんは、結婚式で「幸せになろう」と誓うカップルを見送る一方で、結婚後に幸せそうな人が少ないと感じており、実際に離婚していく友人たちもたくさん見てきたそうです。
「(仕事に育児に家事にと)女性にばかり負担がかかる環境で、そんな『無理ゲー』をやらされるのは受け入れられない」という娘さんに娘の言葉に、塚越さんは「厳しいけれど、その通りだと頷くしかありませんでした。私自身シングルマザーとして生きていく中で、社会環境の厳しさや、夫婦間のすれ違いが離婚につながる現実を身をもって知っていたからです。」
塚越さんは自分の人生を振り返る中で、離婚のリスクが高まる大きな要因の一つが「産後」にあると考えました。出産によって環境が一変するにもかかわらず、育児の負担が夫婦のどちらかに偏りやすく、急激な変化への対応に戸惑うケースも少なくありません。社会の仕組みをすぐに変えることは困難ですが、隣にいるパートナーが「産後の女性の変化」を理解することはできるはず。そう考えた塚越さんは、産後クライシスを未然に防ぎ、家族の絆を守るための活動を始めることを決意しました。どのような形で家族の絆を伝えるのがいいのだろうか―2023年から地域の起業家育成セミナーに参加したり、ビジネスコンテストに出てみたり、クラウドファンディングにも参加したりしながら内容を練り上げていき、生まれたのが絵本『アルとベガのたからもの』です。文字だけだと手に取ってもらいにくいと感じ、絵本という手段にたどりつきました。


「すごろく」で夫婦の対話を促す
『アルとベガのたからもの』では、別々の星から来た2人が地球で出会い結婚し、子供が生まれてから直面するすれ違いを描いた物語です。内容は塚越さんが考案しました。
産後に子供のお世話で手一杯なお母さんと、妻が冷たくなったように感じてとまどうお父さん。お互いを嫌いになったわけではないのに、すれ違いがうまく解消できず、最終的に別れてしまうという自分たちの悲しい未来を2人は知ります。
そんな悲しい結末を避けられるよう、「これを使えば君たちの未来を変えることができる」という”すごろく”を2人は授けられます。
この「すごろく」は、読者の方々も実際に体験できるような工夫を凝らしています。産後はどうしても子ども中心の生活になり、夫婦の会話は「事務的な連絡」に偏りがちです。そこで、ゲームという形を通じて、「家事はルーティン派か、気分派か」といった価値観のすり合わせや、「相手の好きなところを3つ挙げる」といった感謝を伝える時間を、楽しみながら持てるよう設計しました。 塚越さんは、「コミュニケーション不足からお互いのことが分からなくなり、誤解が解けないまま離婚に至ってしまう。そんな夫婦を一人でも減らしたい」という切実な願いをこのすごろくに込めたそうです。

ふるさと納税に採用、企業ともつながりたい
参加したビジネスコンテストで高く評価された塚越さんは、2025年開催の大阪・関西万博において、制作した絵本を販売する権利を獲得しました。また、現在居住している愛知県刈谷市との連携も進んでおり、2025年12月よりふるさと納税返礼品として採用されました。
今後はさらに活動の幅を広げ、育休を取得する社員への福利厚生として絵本を活用したり、社内セミナーを開催したりといった、子育て支援に意欲的な企業とのパートナーシップも模索していく考えです。
これまで作った200冊はもう残り数冊。そんな中で、再度グラミン日本の支援が役に立とうとしています。
再度の融資を相談中
「絵本の増刷と続編の制作資金を確保するため、現在は再びグラミン日本へ融資の相談を進めています。実は当初、別の金融機関にも足を運んだのですが、結果は厳しいものでした。実績のあるデザイン業への融資は可能だが、新規事業、しかも自己資金が乏しい状態では難しい……。そう告げられた時は、相手の立場も理解できる一方で、正直なところ大きなショックを受けました。」
スキルアップや起業準備の段階でも、事業計画がきちんと立ててあれば融資を受けられるのは融資を受けられるのは、グラミン日本のマイクロファイナンスの特徴の一つです。
「私の目標は、100年後の『なりたい職業ランキング』に『お母さん』がランクインするような社会をつくることです。誰もがお母さんから生まれてくるからこそ、どんな環境にあっても、安心・安全に子育てができる社会を築いていかなければならないと考えています。 政治家になって法律を変えるといった大きなことではなく、誰にでもできる優しくシンプルな方法で、世の中を変える『実験』を続けていきたい。これからも楽しみながら、挑戦を続けていきたいと思っています」
